やる気のある社員よりも先に昇格したやる気のない社員の話

とある企業で働くとある社員Cのお話


Cは同世代の社員より昇格が遅れていた。

激務だった前の会社から逃げるように転職して入った今の会社。以前の会社ではどんなに必死に働いても仕事は増えるばかりで、Cは会社のために一生懸命働くという事に疑問を抱き始めていた。

今の会社は残業もそれほど多くなく、それでいて給料も良いという俗に言うホワイト企業。だがCの仕事に対する情熱は戻ることなく、仕事よりもプライベートを優先するようなやる気のない社員となってしまっていた。

そんなやる気のない社員だったので当然会社からの評価はあまり良くない。同世代の社員がどんどん昇格していく中、Cだけは昇格から縁遠くなっていた。

Cは自分だけが取り残されていくことに焦りや嫉妬がない訳ではない。しかし自分にやる気がないことは自覚していたため「まぁ昇格できないのもしょうがないよな…」と諦めていた。


同世代と並び、そして追い越した

そして数年後。Cはなんとか同世代の社員と同じ等級となっていた。

しかしCの仕事に対するやる気のなさは相変わらず。なので「そのうちまた周りに置いていかれることになるだろうな」という後ろ向きな気持ちを抱えながら過ごしていた。

そんな中、上司から一通のメールが届く。

「Cさんを〇級への昇格者として推薦しました。」


Cは我が目を疑った。

最初に述べたように、Cは自分の仕事に対するやる気のなさを自覚していた。Cの仕事ぶりと言えばほとんど残業もせず、自分のやるべき仕事が終わったらサッサと帰ってしまう。

確かにCはそれなりの技術力を持っていた。しかしCより高い技術を持った社員はいるし、彼らはCと比べてやる気もあった。そういったやる気のある社員を差し置いてCを昇格させようというのだから驚くのも当然である。

しかし昇格させてくれるというのだからCに断る理由は全くない。

Cは昇格試験を受け、無事昇格することができた。


なぜCが昇格できたのか?

なぜCは昇格させてもらえたのか?

もしかしたら「上司と仲良くして優遇してもらったのでは?」と思う人がいるかもしれない。

確かに過去に昇格した人の中にはそのような人もいた。たばこ部屋で上司と仲良くしている人が昇格したという話をCも何度か耳にしたことがある。

しかしCはたばこが嫌いだ、だからたばこ部屋で上司と仲良くおしゃべりするという事はない。更にCは上司との飲み会に出る事もほとんどない、出欠確認でも全ての日付に×をつけるくらいの徹底ぶり。

もっと言えば会社で上司と話すこともほとんどない、酷い時には一言も話さない日もある。

つまり「おぅおぅ、お主はかわいいやつよのう~」と言った上司の可愛がりによって昇格した訳ではなく、Cの何かが評価されたことによって昇格したという事になる。


ではいったいCの何が評価されたのか?

Cは常に考えていた、プライベートを優先させるための効率的な仕事の仕方を。



例えばあるWEBシステムの開発を引き継いだ時。

まず最初にCはWEBシステムの構造を調べたのだが、そのシステムには重大な欠陥があることに気付いた。これをそのまま放っておけば近いうちにトラブルが多発する。更に機能追加も徐々に困難になってくる。そうすればいずれ残業せざるを得なくなるだろう。

そこでCは現状の問題点を洗い出し、その問題点により今後発生しうる危険を指摘し、どのような構造に変えると良いかといった内容を資料にまとめて上司に提案した。提案は採用され、C主導でシステムの大規模な構造変更を行った。

この構造変更によりシステムの開発や運用にかかっていた工数を大幅に削減することができた。

またこのシステムには解決不能だと言われる問題が存在したのだが、その時の構造変更により思いもかけず解決に導くことができた。これはCも予期していない成果であったが、Cに対する上司からの評価は格段に上がった。



また上司から何かしらの指示を受けた時。

Cは上司から指示があった場合でもすぐには行動しない。まず上司に対して「どういった目的なのか?」を明確にするために細かく確認を行う。

上司の言葉の通りに行動したとしても、上司の意図どおりの結果になるとは限らないことを理解していたからだ。

上司の意図した結果にならなければやり直す必要が出てくる。そうすれば無駄な作業が発生して時間を浪費する。そのため上司にしっかりと確認してから行動するようにした。

もし上司から意味のない指示があれば「それやる必要ないですよね?」といってやらないこともある。Cは常に必要なのかか無駄なのかを考え、無駄だと考えた作業については徹底的に排除した。



つまりCは問題になりそうなところを予め潰したり、無駄な作業を極力発生させないように仕事を進めていた。これらは決して会社のことを考えて行った行動ではない。全てはやる気のない社員が残業しないために考えだした工夫である。

Cの仕事に対する意識の低さはともかく、行動自体は開発/運用コストや人件費の削減につながった。このような成果により上司はCを昇格させることに決めたのだ。


言われたことをやっているだけでは評価されない

数年前であれば上司から言われたことをやるだけ良かった。ほとんどの会社では残業を多くこなして一生懸命やっていますアピールをしていればそれなりに評価された。

しかし時代は変わった。

今の時代、企業は単にモノやサービスをただ提供しているだけでは生き残れない。人口減少により日本国内での消費が頭打ちになっていることに加え、海外から流入してくる安価で高品質のモノやサービスと戦わなければならないからだ。

そのため企業は、効率的に仕事をこなし、かつ現状を進んで変えていくことのできる社員を求めている。

Cは会社のために考えて行動した訳ではない。しかし結果としてCは今の会社が求める人物像に見事に合致したのだ。



以前、Cは自身の仕事へのやる気のなさに後ろめたさを感じていた。だが自身の仕事のやり方や成果が評価されたことで少しだけ考えが変わった。

「今までは自分のやる気のなさに自己嫌悪したこともあった。けど今の時代、そのやる気のなさが逆に武器になっているのかもしれないな」

そんなことを考えながらCはいつも通り残業せずに帰途につく。



Author: Chaneko